ラピダスは日本の「切り札」となるか?

本稿は、筆者がSubstackに英語で執筆した記事の日本語訳です。

まずは歴史から

建設中のラピダス千歳工場
建設中のラピダス千歳工場、2025年3月

1990年のバブル崩壊以降、日本は長い苦境に立たされている。かつて謳歌していた研究開発(R&D)における技術的優位性が失われたことは、もはや周知の事実だ。そして、その打撃が特に顕著だった分野こそが「半導体」である。

1986年当時、日本は世界の半導体製造の約46%、DRAM製造に至っては実に80%という驚異的なシェアを支配していた。その年、世界の半導体メーカー上位10社のうち、7社が日本企業で占められていたほどだ。

これに対し、インテルやテキサス・インスツルメンツといった企業のロビー活動に突き動かされた米国政府は、日本に対して強硬手段に出た。1974年通商法301条を発動し、協定が結ばれるまで対日制裁を課したのである。この「日米半導体協定」により、日本企業は定義の曖昧な「ダンピング」の中止、製品価格の引き上げ、そして輸出の制限を義務付けられた。

さらに不運なことに、バブル経済の崩壊が重なったことで、企業のR&D資金は枯渇していった。米国企業が日本から市場シェアを奪還する一方で、制裁の重荷を背負わない韓国や台湾の企業がその空白を埋めるように台頭した。協定が失効した1996年になる頃には、日本企業は完全に出し抜かれ、打つ手のない状況に追い込まれていた。

その後、業界再編の試みとして、日立製作所、NEC、そして後に三菱電機の半導体部門を統合し、1999年に「エルピーダメモリ」が設立された。ある程度までは成功を収めたものの、それは短命に終わった。リーマンショックへの対応を誤り、急激な円高も重なって選択肢を失ったエルピーダは、2012年に経営破綻した。

半導体産業の盛衰は、日本の現状と技術的野心を象徴する縮図のようなものだ。実際、日米貿易摩擦において米国が半導体を特に厳しく標的にしたのは、それが理由だったという証拠もある。

しかし、半導体は日本が再び力を取り戻せる可能性が残されている数少ない産業の一つでもある。日本には依然として人材がいる。2022年時点で、半導体製造装置における日本企業のシェアは30%、半導体材料においては50%を占めている。東京エレクトロン、ニコン、信越化学工業、JSRといった企業は、今なお世界の半導体サプライチェーンで重要な役割を担っている。

日本に必要なのは、サプライチェーンの欠落している部分(製造)を埋めることだ。もっとも、これは「言うは易く行うは難し」である。

本題に入る前に、筆者の立ち位置を明らかにしておきたい。私は日本が好きだし、弱い立場にある者が勝つのを見るのが好きだ。だからラピダスには成功してほしいと願っている。以下の内容は、そのバイアスを念頭に置いた上で、話半分に読んでいただきたい。誰しもバイアスはあるものだが、私は極力公平であるよう努めている。

希望:ラピダスの誕生

もし半導体産業での復権を目指すなら、その形はまさに「ラピダス」のようなものになるだろう。

ラピダスは、岸田内閣が2022年に掲げた「骨太の方針」から生まれた。その年の方針には多くの項目が含まれていたが、停滞する日本の半導体産業にとって特に関心を引く一節があった。

「先端技術・機微技術を保有するなど、次世代に不可欠な技術の開発・実装の担い手となる民間企業への資本強化を含めた支援の在り方について検討を行う。日米首脳での合意に基づき、先端半導体基盤の拡充・人材育成に加え、2020 年代後半に次世代半導体の設計・製造基盤を確立する。」

ここで言及されている合意とは、萩生田光一経済産業大臣(当時)とジーナ・レモンド商務長官との間で交わされた「半導体協力基本原則」のことだ。この原則では、日米が開かれた市場に基づき協力し、両国間のサプライチェーン強靱化を図ることが規定された。

この基本原則とその後の「骨太の方針」が推進力となり、日本政府は国内企業に協力を促した。その結果、2022年8月、ソフトバンクを含む国内大手8社の支援を受けてラピダスが設立された。

そこからの展開は早かった。11月には経産省からの支援を確保。12月には経産省が「最先端半導体技術センター(LSTC)」を設立し、即座にラピダスとの連携を開始した。同月、ベルギーのIMECおよび米国のIBMも協力関係を結んだ。特にIBMはGAA FET技術をラピダスに供与し、ラピダスはニューヨーク州アルバニーのIBM施設へ技術者を派遣している。

2023年2月、ラピダスは北海道千歳市を工場建設地に選定。2024年12月にはASML社からEUV露光装置を取得し、勢いづいた。2025年4月にはパイロットラインが稼働し、7月に2nm世代のプロトタイプを発表するという最初の大きなマイルストーンを達成した。

ラピダスにとって最大の課題、特に初期段階におけるそれは、人材、とりわけ「若い人材」の確保だった。当初、日本のSNSでは「老人クラブ」と揶揄されたりもしたが、組織は順調に拡大している。設立時の2022年8月にはわずか14名だった社員数は、現在では約1,000名に達し、そのうち800名は社会保険完備の正社員である。月に27〜33名ペースで着実に増員している計算だ。新卒採用の数によって採用数が激しく変動する他の国内半導体企業と比較すれば、この安定感は印象的だ。このペースが過去3年間のように続けば、量産開始となる2027年までに社員数2,000名という目標を達成できるだろう。

年齢の問題については、ラピダス従業員の平均年齢は約48歳と依然として高い。TSMCの平均36歳と比較すれば、その課題は明らかだ。しかし、設立当初は平均50歳を超えていたことを考えれば、若返りは進んでいる。米国からの獲得を含め、20代の若手技術者を徐々に惹きつけ始めている。今後さらに平均年齢を下げられるかは未知数だが、軌道は上向いていると言える。

現実と懸念

問題は、同社のタイムラインがどう見ても常軌を逸している点だ。わずか3年で、ラピダスは「ゼロ」から「2nmチップ」へと到達した。確かにIBMの支援や、世界で初めて2nm製造に成功した企業のバックアップ、さらには日本の半導体業界と政府の総力を挙げた協力体制はある。だが、もしこれがTSMCやサムスンであったとしても、もっと時間がかかったはずだ。彼らには既存の基盤があったにもかかわらず、である。

ラピダスが選んだ「近道」は、TSMCやサムスンが行っているような「バッチ式」ではなく、「枚葉(まいよう)式」と呼ばれる生産方式を採用することだった。複数のウェハーを同時に処理するのではなく、一枚ずつ処理する方式だ。これにより歩留まり(=品質)は高くなるが、生産量は大幅に低下する。

これはラピダスにとって構造的な問題を突きつける。TSMCやサムスンよりも歩留まりの良いチップを作れる可能性はあるが、生産量は彼らに遠く及ばず、競合他社よりも遥かに高値で販売しなければならなくなる。しかも、TSMCとサムスンは今年(2025年)量産を開始する予定なのに対し、ラピダスの量産開始は2027年だ。

ラピダスにはいくつかの生存戦略がある。CEOや業界関係者が語るように、特定の顧客向けに高度に特化したチップを製造する「最先端ファウンドリ」としての役割を担う道だ。これは枚葉式の利点(多品種少量生産)とも合致する。あるいは、まずは市場での存在感を確立し、黒字化してから規模を拡大する計画かもしれない。しかし、どの道を選んだとしても、短期的にはリスクが高い。競争にどう打ち勝つつもりなのか、その方向性はまだ公表されていないプロトタイプの技術仕様が明らかになった時に見えるだろう。

第二の問題は、資金調達だ。建前上、ラピダスは民間企業8社が出資し、政府が支援する「民間企業」である。しかし実態は、資金の大半が政府からの拠出で賄われている。

一方では、これは驚くことではない。TSMCの歴史を知る読者なら、彼らも初期に全く同じ課題に直面したことを知っているだろう。また、日本の民間部門はもはやリスクを負わないことで知られており、ラピダスへの投資は間違いなくリスクそのものだ。だが他方で、これによりラピダスはいわゆる「官製プロジェクト」の色合いを強めている。日本の官製プロジェクトの歴史に詳しい人なら、これ以上説明する必要はないだろう。

ラピダスは2027年の量産までに5兆円が必要だと試算している。この3年間で確保できたのは2兆円であり、資金調達に苦戦している。その2兆円のほぼ全てが日本政府からのものであり、残る3兆円もそうなりそうだ。石破茂首相は2030年までに半導体産業へ10兆円の追加支援を約束しており、その一部がラピダスに流れる公算が高いからだ。

これはラピダスが日本政府の意向に左右されることを意味する。後述するように、私は政府が最後まで面倒を見ると信じているが、もし石破政権が倒れ、財政規律派の首相に代われば、ラピダスは窮地に立たされる。民間企業からの投資を呼び込み、万年赤字にはならないことを証明する必要がある。

第三の問題は、競合他社だ。サムスンは内部的にラピダスを脅威と見なしていないと噂されるが、最大手であるTSMCは違う。TSMCは日本国内での人材獲得攻勢を劇的に強めている。

ラピダスがテストライン稼働を発表した今年4月、TSMCは日本法人JASMを通じて、ネット(純増)で500名のエンジニアを採用した。これは日本の半導体業界において、久しく見なかった大きな動きだ。その2ヶ月後の6月、TSMCは東京大学との協業を発表し、「TSMC-東大先進半導体技術連携研究機構」を設立した。場所は前述のLSTCからもそう遠くない。

ラピダス側もこの動きを警戒しているようで、TSMCの発表からわずか1ヶ月後、LSTCは新たに200名の設計エンジニアの育成を開始すると発表した。

そして本稿を執筆中に、TSMCが現職エンジニア2名と元エンジニア1名に対して法的措置をとったというニュースが飛び込んできた。彼らは在宅勤務制度を悪用してTSMCの2nmプロセスに関する歩留まりデータを不正に入手し、スクリーンショットを1,000枚以上撮影して、7月下旬に東京エレクトロンへ送信した疑いが持たれている。奇しくもラピダスがプロトタイプを発表した直後のことだ。ラピダスの現会長は、東京エレクトロンの元社長である。これ以上多くを語る必要はないだろう。

結論/個人的見解

ここからは客観的な事実を離れ、主観的な意見を述べたい。

個人的には、ラピダスは量産(あるいは彼らが定義するところの「量産」)には漕ぎ着けるだろうが、黒字化は難しいと考えている。最大の疑問は、半導体市場でニッチを確保するために具体的にどのような方向性を取るのか、そして短期的に赤字が続いた時にどうなるのかという点だ。

最初の疑問に対する答えはチップの仕様が公開されるまで分からないが、日本政府の現状を見る限り、彼らは最後までラピダスを支え続けるだろう。

もしかすると、ひょっとすると、今回は「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の二の舞にはならないかもしれない。あくまで「かもしれない」だが。

筆者は世間知らずのただの高校生だ。どうかあまり本気で怒らないでほしい。


• Read in English

• 戻る